七転八起DAYS

転んだままずっと起き上がれない人間の些細な日常と思うところ

映画「風立ちぬ」のいまさら感想

先週、テレビ放送された「風立ちぬ」をやっと見ることができたのでいまさら感想

f:id:gatti_saga:20150227000839j:plain

風立ちぬ」のあらすじ

かつて、日本で戦争があった。
大正から昭和へ、1920年代の日本は、不景気と貧乏、病気、そして大震災と、まことに生きるのに辛い時代だった。


そして、日本は戦争へ突入していった。当時の若者たちは、そんな時代をどう生きたのか?


イタリアのカプローニへの時空を超えた尊敬と友情、
後に神話と化した零戦の誕生、
薄幸の少女菜穂子との出会いと別れ。


この映画は、実在の人物、堀越二郎の半生を描く。 

 

2013年7月に公開された「風立ちぬ」。宮崎駿監督の長編映画引退作品となり話題となった。公開されてすぐに僕の先輩が映画館で観て来た時の感想は「面白くない」という評価を聞かされていた。先週テレビで放送されるとは知っていたが、出勤直前のテレビCMを見て「とりあえず、録画しておくか」と録画設定をするくらい、先輩の評価を鵜呑みにして「観なくてもいいか」と思い込んでいたところがある。ただ、観終わった今は、

 

録画しておいて正解だった。

 

と思った。やはり、なんでも自分で体験しないとわからないものだと改めて自戒する。

 

物語の始まり、主人公である二郎の幼少期の夢から作品は始まる。

この導入部分が退屈だったという感想をよく目にするのだけれども、この部分の雰囲気がいかにも「宮崎ワールド」いわゆるジブリというテイストなんだと思った。子供が近未来型をした飛行機に乗って日常の景色を自由に飛び回り、謎の飛行艇に撃ち落とされて、少年は空から落ちていく。この時に描かれている風景、モブキャラ達の精密さはジブリのクオリティが凝縮されていて退屈など感じられない。

 

ただ、ファンタジーの要素を求めるならこの少年がその空から落下したところから謎の海賊団や追われる少女が出てこないといけないが、残念ながらこの作品ではそれはない。

 

幼少期の描写で夢の中で、カプローニというイタリア人の航空技師と出会う。ここに、あらすじにある「時空を超えた尊敬と友情」という言葉とつながる。この部分は同じ世界に生きるものが出会わずして共有しうる部分を夢という形で表現している。芸術家が美しいものを描きたいと思う気持ちを持った時、その気持ちは太古の時代だろうと中世だろうと現代だろうと想いが繋がっていると想像すると簡単に、あの場面の描写が瑞々しいものに変わると思う。このカプローニという人物は実在し、戦争に役に立たない航空機ばかり作っていたのも史実に基づくようである。なんといってもスタジオジブリジブリ」という名前自体がカプローニの設計した飛行機から由来しているというのだから。この作品を通して、いかにリスペクトしていたかを表現していたのだと思う。

 

その後、成長した二郎は電車で東京へと向かう。その最中、関東大震災が襲う。この部分の描写も見事で、特に大地がうなるような音による表現が秀逸だったと思う。そこで、二郎は運命的な出会いをする。菜穂子と出会う。震災の混乱の中、二郎は菜穂子を助けるが名も告げず立ち去る。今の時代なら「LINEのID教えておきますね」となるが、そんな時代じゃないし。そして、大学?で勉強する二郎。食事で鯖の骨の綺麗な曲線を見て計算をし、最終的には航空機の技術へと昇華させていく。

 

その後、ドイツに研修に行ったり色々あって(ここからいきなり適当だな・・)二郎は初めて自分の設計した飛行機を飛ばすこととなる。しかしながら、失敗に終わる。失意の二郎は避暑地に静養へと。その静養地で、震災の時出会った菜穂子と運命的な再会。震災の時にお世話になった人物と知り、菜穂子の父親と菜穂子と晩餐を予定していた時に菜穂子がまさかの病気。どうやら、重い病気らしい。その病気の療養の期間を経て想いを通じ合わせる二人。で、淡々とここで父親の前で「婚約」をしてしまうが菜穂子は病気を治してから結婚したいということで高原病院という人里離れた山の中のいわゆるサナトリウムへ。このサナトリウムの表現もすごくて、え?本当にこんなのだったの?と思うシーン。

 

しばらく離れて暮らす二人だが、二郎からの手紙をサナトリウムで受け取った菜穂子は会いたい気持ちを抑えられずサナトリウムから逃亡。電車に乗って二郎の住む街へ。その時どの部分が引っかかったのか二郎は特高警察に目をつけられていて、二郎の上司である黒川の家の離れで住んでいた。黒川は「結婚前の女性を連れ込むことなど・・」となるが、「ならば結婚します」という感じで、その場で黒川夫妻を仲人に結婚をする。ここで出てくる黒川の奥さんが、いかにもジブリに出てくるいい奥さんという感じで「ああ、こういう大人の女の人って自分も随分歳を重ねたけどいなくなったよなぁ」と観ながら思った。

 

二郎の妹が、二郎の元を訪ねてくる。二郎の妹は小さい時からの夢を叶えて医者へと。その医者の立場から「お兄ちゃんが考えているよりも、菜穂子さんは重い病気なんだよ」と告げられる。と同時に「菜穂子さんはとってもいい人よ・・かわいそう」っていう部分で、この映画感情の移り変わりの早さは半端なく早いんだなぁと思った。だって、初めて会うんだよ、その日に妹。ずっと寝ている菜穂子の横で仕事をする二郎。次の飛行機の設計をしていたのだ。その間も手をつなぐ二人。

 

そして、二郎の飛行機が完成。試験飛行の日、この日は二郎の妹が訪ねてくることになっていた。二郎の家へと向かうバスの中、歩く菜穂子の姿を見る。今日は朝から気分がいいので歩いてくると言って菜穂子は家を出ていたのだ。そして、部屋には書き置きが。「一番美しいところだけ見て欲しかったのね」という黒川の妻の言葉。二郎の飛行機は見事に成功・大成功。しかし、その時何か虫の知らせを感じ取ったのか遠くを見つめる。

 

そして、カプローニとの夢の時間へ。自分の設計を元に戦闘機が作られ戦争で残骸が転がる向こうで子供の時に最初に出会った草原でカプローニと出会う。夢が叶ったのだなと問いかけるカプローニに「それでも、一機も帰ってきませんでした」と答える二郎。その草原の先で菜穂子が待っている。「あなた、生きて」というメッセージと共に彼女は風の中に消えていく。

 

【総括】やはり宮崎駿さんは宮崎駿さんだと感じる映画

ぼんやり観ていると、この映画はあっという間に終わる。ただ、やはり一つ一つの描写は細いし丁寧だ。震災の時のモブキャラの細かい動きと、その多さ。描かれる風景の綺麗さ。やっぱりジブリなんだなぁと思う。出てくる機械の類の描写はリアリズムに走るのではなく宮崎駿のフィルターを通したテイストで描かれている。ドキュメンタリーと呼ぶにはファンタジーで、ファンタジーと呼ぶにはドキュメンタリーで恋愛ものと呼ぶには戦争映画で。

 

ただ、戦争をテーマに戦争の表現はあまり出てこない。戦争に巻き込まれていく空気感は描きつつも話の主論はそこに置かないバランスがあった。もともと、カプローニと二郎の友情と菜穂子と二郎の恋愛という二つの選択肢が製作前にあったそうだ。結論としてどちらもやるということになったらしい。全てを描くのには映画という枠では時間が足りないだろうし、例えばこの作品をテレビで毎週放送してくれるような気概のある買い手はつかないだろう。ただ、この作品はその二つのテーマをギリギリのところで表現している。

 

それと、主人公である二郎がタバコをよく吸う。これには日本禁煙学会からジブリに要望書が入ったという。このタバコを吸うという表現とともに、二郎と菜穂子は作品中でよくキスをする。こういった表現はジブリの作品ではあまり見たことはなかった。おまけに結婚を終えた晩の明らかに二人が体を重ねるであろうという表現もあった。エロティックに描写されていないが妙なリアリティーがあった。

 

一番、印象に残ったのは菜穂子が嫁入りしてくるシーン。たぶん、すごく思い入れがあるシーンなんだろうなと思った。その姿が美しく菜穂子がともかく可愛い。たぶん、ジブリの歴代ヒロインの中で一番美しく描かれていると思う。しかも、この美しさが命の儚さからくると思うと観ているだけで泣けてきた。この部分だけでも、この映画は観る価値があった。

 

ここまで、どちらかというと人間ドラマとしての側面を書いてきたけれど、この作品の二郎というエンジニアの悲しみもテーマの一つである。夢を追い、ただ美しい飛行機を作りたかった二郎だが結局、戦争の道具である戦闘機を作ることとなった。この二郎と呼ばれる堀越二郎は二人の実在する人物をモデルにしているらしい。一人は零戦の設計を行った堀越二郎、もう一人は婚約者を結核で亡くす文学者の堀辰雄。どちらも大きな挫折や喪失感をもった人物。おそらく、東日本大震災という経験を経て大きな挫折や喪失をした人たちへ向けての宮崎駿からのメッセージでもこの映画はあったと思う。最後に菜穂子が二郎へ「あなた、生きて」というセリフがある。当初は「あなた、来て」と死後の世界へ導くような言葉だったという。「生きてこそ」このキャッチフレーズは、生きていく人間の責務を感じる言葉だなぁと思った。

 

公開当初から言われていた、声優の問題。特に主人公の声に関して色々言われていたのだけれど、あれはあれでよかったと思う。朴訥な技術屋という感じが描かれいた青年のビジュアルと合わなかっただけ。だって、この「風立ちぬ」の二郎という青年と菜穂子という女性の描写は今まで子供や少女の描写が多いジブリの作品の中でも群を抜いてよく描かれているから。そのギャップは仕方ないかなぁ。くどくなるけど、菜穂子の可愛さは異常。だって、声も瀧本美織で可愛さの数値が振り切れてる。

 

巨匠と呼ばれる人間の引退宣言作品としてこの作品は面白かった。

でも、本当に辞めるのかなぁ・・・・収益がどうのこうのっていうならハナから宮崎駿に自由にやらせなければ良かっただけなんだけどね。結局、おんぶに抱っこでやりたいことやり始めるとこれじゃないんだ的な空気になるのはどうなんだろうか?でも、正直な気持ちとしては最後の最後に壮大なファンタジーを作って欲しいと思うのでした。